『umigiwa profile』prologue

2023.05.03

“海際の集落”と表現すると、交通の便があまりよくない地域を想像するかもしれない。しかし、約15分ごとに電車が往来する駅舎があり、高速道路の乗降口も近く、サイクリングロードまで通っている集落が存在する。和歌山県海南市冷水地区、通称「冷水浦(しみずうら)」だ。対岸には和歌山市の遊園地があり年に数回上がる花火まで見えるため、日常と非日常とのコントラストがこの集落の稀有さを一層際立たせている。

 

 

令和4年12月時点の自治会の調査によると、冷水浦には151世帯・400名足らずが暮らしていると言う。海沿いの山肌に細い路地を分け合って所狭しと古民家が軒を連ね、紀州特有の青石をふんだんに用いた石垣や、井戸、魚を捌くために使われていた屋外の流し台の跡が随所に見受けられる。対岸の一部が工業地帯となっているため大型の貨物船が時折出入りし、映画のワンシーンのような重厚な汽笛を集落中に鳴り響かせる。

 

 

約50年前まで、冷水浦の大通りには魚屋や八百屋、文房具屋などの商店が建ち並び、夏には冷水八幡神社で盆踊りが開かれ、大勢の子どもや大人で賑わっていた。だが周辺地域に大型の商業施設が建設されるなどして、冷水浦の商店は軒並み閉店。少子化により内海小学校の冷水分校は2018年3月に廃校。勾配が急な細い路地が多く再建築不可な物件が少なくないことから住み手が減り、現在空き家は100軒近くにのぼる。

 

 

そんな冷水浦が最近、にわかに賑わいを見せている。存続の最後の砦となるシラス漁業や由緒ある寺の後継者が活躍し、20代30代の移住者が現れ始め、2022年12月には集落唯一となる飲食店が開店した。巨大な防波堤の建設だけでなく地域コミュニティの強化による防災アプローチも検討されつつある。集落の変遷や防災の取り組み、後継者や移住者の活動など、冷水浦のプロフィールを知るため5組の住人に話を伺った。

 

 

※写真解説
1枚目:和歌山県の交通の大動脈とも言える国道42号線とJR紀勢本線が走っている冷水浦(2023年)、2枚目:JR冷水浦駅(2023年)、3枚目:冷水漁港と了賢寺(2023年)4枚目:冷水八幡神社(2023年)、5枚目:移住者が営む飲食店(2023年)

 

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以上は、冊子『umigiwa profile』のweb版としての転載です。

発刊   2023年3月31日
企画   価値検証フィールワークユニット2023、友渕 貴之(宮城大学)
制作   前田 有佳利(noiie)
企画協力 日本建築学会海際文化小委員会、Seaside Monkey
制作協力 土井 佐知子(冷水自治会)
写真協力 内海小学校冷水分校資料、了賢寺